アピール
2000年8月
理事長* 中村 幸安
(*注 設立時理事長)
2000年という節目の年に、『建築Gメンの会』という名称で、積年の会の発足ができますことを、共に喜びあいたく存じます。私たちのささやかな専門家としての運動の成果とは裏腹に、俗称=欠陥建築は少なくなることなく、増えているのが実情でしょう。
そうした中で、当年から改正された建築基準法並びに同施行令及び、新設された関係法規が適用される運びになっています。
しかし、省みますに、今回の法改正で導入された『中間検査』や『10年保証』は、私たちがこれまでに扱ってきた『相談事例』の欠陥住宅を阻止することに、余り関係がないことが段々に分かってきました。換言すれば、新法が発足してもわれわれの出番が全く減らずに、却って増える関係にあるということです。
私たちがこれまでに扱ってきた欠陥住宅の事例は、大きく分けると
- 1. 極めて平均的庶民の住宅が多かったこと
- 2. 多くが『確認申請の特例』が適用されていた物件だったこと(6条の2項適用物件)
- 3. 多くが『工事完了審査』が免除された物件(工事監理者による申告で検査済証発行)
- 4. 『検査済証なし』の特約物件が多かった
私の預かっている『住まい110番全国ネットワーク』にかかってくる、相談電話は、一日平均15~16件。年間通して、約6千件余(土日休み)という凄まじさである。長年こうした『欠陥建築』の問題に取り組んできた者として、何とか欠陥建築を事前に予防することができないかという事の結論が、『良心ある建築士が、良心的に工事監理を行うこと』に尽きるという地平に行き着いたのです
悲しいことですが、上記した1~4の事例はいずれにも建築士が係わっていることを私たちは、自分の問題として受け止める所から出発せざるをえません。法律を設けるよりも、法律を変えるよりも、私たち建築士が『心を変える』ことを宣言しなければなりません。建築Gメンの会は、『心を入れ換えた建築士の会』であることを、社会に宣言します。
しかしながら、この1年ほど、相談者からの相談を『予定会員』に紹介して、実際の鑑定・調査を行って参りました。その感想を申し上げますと、会員の間にも大きな力の差が存在する事が分かりました。
1級建築士でも2級建築士でも、その資格試験の内容は、新しく建築を作る(生産する)ことを前提とした能力テストであります。従って、現実に出来てしまっている建物を鑑定・調査する能力を試している訳ではありません。したがって賛同者の中には、紹介した検査を通して、今後この種の仕事をやる自信がなくなったと、会への参加を辞退してこられた事例もあります。誰をも責められません。これが、良心を持った建築士でも、この程度だというのが厳しい現実なのです。
私は、当会の活動は、何をさておいても構成員の研修を重ねて、質の高い鑑定・調査が出来る建築Gメンを多く生産する事だと考えています。そのために、第一線で活躍しておられる専門家を講師に招き、
- 1. 的確な方法で
- 2. 的確な技術をもって
- 3. 状態・現象を計測し
- 4. 鑑定する
という一連の流れを、マスターしてもらいたいと考えています。多くの正会員の方から、鑑定のマニュアルがないのか、との問い合わせがありました。しかし、私は、それには即答しません。それは、医療の現場から警察に至るまで、管理社会の弊害とも言える『マニュアルでことを判断する』ことを繰り返したくなかったからです。現実に存在している建物の鑑定・調査は、用意されたマニュアルでは解明できません。それは作り手の『技』によって、全ての建物の中身が異なるからです。私は、相談の対象となっている建物の前に立ち、建物と語らいます。老練な医師が、診察室でお喋りしながら、患者の足元から頭の頂まで観察し、大方の診断をします。患者の顔を見ずに、マニュアル通りに検査項目を掲げて検査室回りをさせる医者は、そのデータから患者の病を知ろうとするのでしょうが、データーに出ていない病気が多い現代、その病を治す処方箋は、マニュアルによる調査からは出ない事例を多く経験してきました。
私が考えている研修テストは、建物を撮影してきた30分程度のビデオを一人で、じっくり見てもらいます。そして、その30分の観察を通して、見た建物にどのような瑕疵・問題が存在したか、そして、瑕疵として指摘したその論拠は何か、を聞き質したい。
客観的に存在する瑕疵を、どの程度見抜けるかをテストしたい。そして、このテストに合格した者のみに、『建築Gメン』の称号を与えたいと考えています。しかし、われわれがこの仕事を今日まで続けてきて、浮上してきているのが費用の問題です。
- 1. この仕事を専業として食っていけるか
- 2. この調査費を被害者が負担できるか
多くの調査を行っている団体・組織の報告書の内容と請求された費用の額を見て、これは鑑定・調査内容に照らして高すぎるという鑑定書を沢山見てきました。これでは、会の趣旨は良くても、我々に鑑定・調査を依頼する人が少ないでしょう。そのために、会として、資本の固定化を防ぎ、費用を抑えるために調査用の大型機器の共同利用が可能となるように、本部機能を整えていく予定です。こうした協業化によるコストの削減なくして、多くの消費者の求めに応じる事はできません。
われわれは、今後、次のような方々からの要請で出動する事を想定しています。
- 1. 一般消費者からの検査依頼
- 2. 業者からの検査依頼
- 3. 係争物件についての裁判所からの鑑定依頼
- 4. 媒介等を業とする不動産業者が丸投げしている物件の検査依頼
- 5. 公庫融資を受けている物件の検査依頼
そして、何よりも、
- a. 契約前の相談
- b. 契約時のチェック
- c. 基礎工事の施工検査
- d. 上棟時の検査
- e. 引渡時の検査
を徹底することにより、欠陥住宅が生まれなくすることに、われわれの会の目的があるといえます。
加えて、われわれの活動は、悪質な業者を公表するとともに、善良な業者を公告していきます。係争中のトラブルの公判日時等も会報で発信します。
終局的には、ひとりひとりの消費者が賢くなることと、良心と高い技術を身につけた建築関係の技術・技能者を育成していくことに、活動の目的をおくべきだと考えています。一緒に、住まいづくりの領域から「世直しの声」をあげましょう。